第24章 告げる
息がかかるほどのこの距離に、鼻を掠める五条先輩の香りに、頭がおかしくなりそうだった。
切な気に揺れる瞳が、一体何を考えているのか分からないその感情が。
ただ、一つに分かることがあるとするのならば…五条先輩が私との関係を終えてから、何とも思っていなかった訳では無いと言うこと。
「エナ」
分からない、分からないはずなのに、心臓は煩いほどに跳ねて押し潰されてしまいそうだ。
私の名前を呼ぶ五条先輩の声が切なくて…
私は訳も分からず泣きたくなった。
五条先輩の指先が、私の頬へとするりと触れる。
ズルイ、あんなにも自分勝手に離れていったくせに…こうしていとも簡単に私の身体に触れ、心をぐちゃぐちゃにしていくのだから。
新雪が踏み荒らされるような感覚だった。ここまで必死にグラグラに揺れる気持ちを繋ぎ止め、忘れようとしていたはずなのに。
五条先輩が私の名前を呼び見つめるだけで、そんな思考など簡単に溶けて消えてしまうのだから。
頬に触れる指先が熱い。
真っ直ぐに見下ろされる瞳は熱を持ち、そして私をどこまでも縛り付ける。
何で…
けれどその瞬間、揺れ纏う私の脳裏に浮かんだのは…
「……っ…」
私の名前を呼び、こちらへと優しい笑顔を向ける傑先輩の姿。