第24章 告げる
「…五条先輩?」
どうしたと言うのだろうか。
「…お前さ」突然降って来た少し掠れた声、それに思わず顔を持ち上げれば、こちらを真っ直ぐに見つめてくる碧色と視線が絡まり合う。
「何とも思わねぇの?」
「…え?」
どういう、意味だろうか。
言葉を発する声が、少しいつもと違って聞こえる。力のこもったような…それでいてどこか焦りすら感じるそんな声だ。
「何で普通にしてられんだよ」
「何言って…」
「俺はお前といると苛つく。自分が自分じゃねぇみたいで苛つくんだよ。離れればそんな気持ちも消えて無くなるだろうと思った、この苛立ちも訳のわかねぇ焦燥感も」
「…………」
「なのに、そう思うはずなのにお前を見ると…調子が狂う。さっきまで苛立ってたはずの感情が消えて、また自分が自分じゃなくなったような感覚さえするのに、それが嫌だとは思えない。本当意味分かんねぇ」
サングラス越しに見えるその瞳は、美しい色をしているはずなのにどこか曖昧で、ゆらゆらと揺れるようにして私を視界に閉じ込めた。
「お前、なんなの、マジで。何でこんな俺を…」
五条先輩が何を言っているのか、理解出来なかった。いや、理解しようとは思ったが、そんなこと到底無理だった…だってこんな…突然こんなことを言われて、混乱しているのは私の方だ。
普通になど、していられていなかったはずだ。そんなのむしろ公然の事実であるとすら思っていた。
平気だったわけがない、平気だったなんてそんなこと、一度たりとも思ってすらいない。