第23章 はじめての
「今外にいるんだ。あぁ、そう。灰原と二人で楽しんで。うん、まぁそんなところだよ。はいはい、次回は付き合うから」
五条先輩の声はこちらには聞こえないが、数度言葉を交わした傑先輩は楽しそうに笑いながら話すと、最後に「それじゃあね」と言葉を落としそのまま電話を切った。
「五条先輩何て?」
「灰原とゲームするから来ないかって」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥底がザワつくような感覚になる。
「じゃあ早く帰らないとね」
「いいや、断ったよ。だから気にしなくて大丈夫」
こちらを見下ろして笑顔を見せてくれる傑先輩を見て、苦しい気持ちになった。
だって私は今…傑先輩に嘘を付かせてしまったんだ。
傑先輩の親友である五条先輩に。私と一緒にいるということを隠し、曖昧な言葉で傑先輩はきっと五条先輩の質問をやんわりとかわしたはずだ。「誰かといんの?」だとか、多分そんなことを聞かれていたのだろう。
「まぁそんなところだよ」そう言った傑先輩の表情が少しだけ硬くなったような気がして…
私は傑先輩に親友へと隠し事をさせて嘘を付かせているのだと、それがやたらとリアルに胸に落ちて来た。先輩は私の気持ちを優先して、今この状況を作ったはずだ。
付き合っていないならまだ良い、だけれど私は付き合うことを選んだ。その時点で本当ならば、周りの皆へと話すべきだったのかもしれない。
私の気持ちがどうとか、そんなことはどうでもよくて…傑先輩と五条先輩の関係を考えれば、隠し通すことなど難しいことだから。私と五条先輩の元の関係を考えたら尚更に…
二人の関係性は特別だ。
きっと私は、間違いを起こした。ずっとそうだ、ずっとそうだった。
私はずっと、傑先輩へと隠し事をさせてしまっていたんだ…