第23章 はじめての
気が付いていたはずだ。そもそも隠そうとしている時点で、それは分かっていたはずだ。
それなのに気が付かないふりをした。気がつかないふりをして、傑先輩の優しさに甘え続けた。
傑先輩だって本当ならば、このことを隠していたいとは思っていなかったはずだ。だけれどそうさせてしまったのは私。
傑先輩と一緒にいることを選んでおきながら一歩を踏み出せていなかったのは紛れもなく私自身だ。
「…先輩、付き合ってること五条先輩に話そう」
小さく絞り出したような声だった。
「…いいのかい?」
「うん」
きっと初めからそうするべきだった。もう今更自分の正しさなど分かりはしないけれど、二人の関係に少しでも溝が出来てなど欲しくはないから。
「無理しなくていいんだよ」
それはこちらの台詞だ。傑先輩はいつだって人のことばかり。少しは自分を優先したって良いはずなのに。
「無理してないよ、そうしたいと思ったんだよ」
「…そっか」
傑先輩がそれ以上何かを聞いてくることはなかった。けれど、私の心の中で何処か消化しきれていない部分を見透かされていたのかもしれない。
心配気に見つめてくるその瞳が、少しだけ揺れていることに私は気が付かなかった。