第23章 はじめての
優しい声が、穏やかな空気が、眩しいばかりのその甘やかな笑顔が、私の胸の中でいっぱいになる。
まるで足りなかった何かが埋まるような感覚。
「そろそろ帰ろうか」
ゆっくりと身体を離した先輩が、もう一度私の手を取るとそれを優しく包み込むようにして握りしめ瞳に弧を描いた。
「もう夜だし、一緒に高専まで帰って平気かな?」
「そうだね、誰かに会うことはそうないと思うよ。まぁ会ったとしても、そこら辺で偶然会ったって言えば大丈夫じゃないかな」
「そうだね」
見上げた先の傑先輩はやはりとても嬉しそうで、そんな先輩を見て私は繋いだ手をギュッと握り締めた。
「電話みたいだ」
駅へと向かっている途中、ピタリと足を止めた傑先輩がポケットから震えた携帯を取り出す。
「悟だ、ごめん。出ても平気かい?」
“悟”という言葉に思わずピクリと身体が小さく反応してしまう。
「うん、どうぞどうぞ!」
「ごめんね」と申し訳なさそうな表を浮かべた傑先輩は、そのまま通話ボタンを押すと携帯を耳へと押し当てた。
傑先輩の手が大きいからだろうか、すっぽりと手の中に収まる携帯がやけに小さく見える。