第23章 はじめての
「私はたった一人から、好かれたいだけなんだけれどね」
ゆるりと口角が上がり、少しばかり意地悪気な笑顔が顔を出す。「君からね」と甘美な声までプラスして。
「〜〜……っ」
私はそれに身体の熱が上昇していくのを感じながら、慌てて傑先輩から視線を逸らした。
「えっと、何食べようかなぁ」
わざとらしい声が口から漏れて、傑先輩はそんな私の動揺を見てかクスクスと楽しそうに笑っている。
モテる所を否定しない辺り、本当に普段のモテっぷりが伺える訳だけれど、傑先輩だとそれすら嫌味に感じない。むしろそれが当然であるかとすら思えてくる。
以前先輩が言っていたことを思い出す。「いくらモテても、好きな人に好きになってもらえなければ何の意味もない」そう呟いていた傑先輩の言葉を。
今思えばあれはきっと、私のことだったのだと思う。自分でこんなことを思うなど図々しいかもしれないが…多分…そうだ。
その時の傑先輩の表情はどこか苦し気で辛そうで、まるで自分を見ているようだと確かそんなことを考えていた。
でも今は違う、こちらを見て嬉しそうに笑う先輩がいる。それだけで胸の中が少しばかりふわっとした気持ちになった。