第23章 はじめての
寮を出る前はやたらと緊張していたはずなのに、いざこうして傑先輩の顔を見て話し始めると緊張が少しずつほぐれていくから不思議だ。
「いらっしゃいませ〜」
そんな店員さんの声に合わせて店内へと入ると、ふわりといい香りがしてくる。
私達がやって来たのは最近できたばかりだというお洒落なオムライス屋さんだ。少し前に話題になっていて、行きたいと思っていたことを思い出しそれを告げれば、傑先輩は「じゃあそこに行こう」とあっという間に店のホームページを見ながら予約をしてくれた。
「では、ご注文お決まりになりましたらそちらのベルでお呼び下さいませ」
ペコリと頭を下げた若い女性店員は、顔を上げた瞬間一度チラリと傑先輩を視界に入れると、ポッと頬を染めそそくさとその場を後にする。
「傑先輩って本当にモテるよね」
優気で穏やかな雰囲気、そしていて色気まで備わっているのだ。モテるなと言う方が無理だろう。
けれどそれでもやはり間近でこんな場面を目撃してしまえば、そのモテっぷりに感心すらしつつも、また胸の辺りがモヤっとしだす。
傑先輩が女の子から言い寄られている場面も、ナンパされているのだって何度でも見てきたはずなのに。
そもそも五条先輩のセフレであった時なんかは、もっと酷く辛い光景を何度も見てきたはずだ。
それなのに何故…これしきで胸の辺りがモヤつくんだろう。