第22章 分からない
見上げた先の傑先輩は、いきなりの私の行動にやはり不思議そうな顔をしてこちらを見下ろしている。
けれどどう切り出そう…といつまで経っても話し始めない私を見て、少しばかり背を倒しかがみ込むようにして私を見つめると「どうしたの?何かあった?」と心配気な声が聞こえてきた。
「あの…傑先輩」
「うん?」
私が話しやすいようにだろう、穏やかで優しい声だ。傑先輩のこういった所を好ましく思う。相手を思いやり考えてくれていることがとても伝わってくるからだ。
だけれどそんなことを伝えれば「君が相手だからだよ」だなんて甘い言葉を落としてくれるものだから、こちらとしてはたまったもんじゃない。
心臓がバクバクしてとてもじゃないが平常心でなどいられない。だけれど今はそんなことを思っている余裕すらなくて。
「私、傑先輩に言わないといけないことがあって…」
「うん」
「実は、少し前から五条先輩に体術の修行を付けてもらってて」
傑先輩は今の話を聞いて一体どう思っただろう。嫌な気持ちになっただろうか。
「言わなきゃと思ってたんだけど、なかなか言えなくて…二人きりでやってるから傑先輩に伝えないとって…」
私の静かな声が廊下にぽとりと落ちる。それに反響して聞こえてくる自分の声がやけに情けなく聞こえて…思わず下唇に力がこもった。