第20章 厄介ごと
その声は、微かに震えていた。
「答えは急かさないと言ったのに、こんなことを言ってすまない。でも、もうエナへの気持ちを抑えられそうにないんだ」
その傑先輩らしくない切羽詰まった声に、思わず胸がドクリと音を上げた。
分かっていたはずだ、五条先輩のことを簡単に諦められはしないことは。
でも、それでもこの人は私へと想いを伝え続けてくれた。こんなどうしようもない私を想って支えてくれた。
「…私、結構ワガママかもしれないですよ…あと…喧嘩したらすぐ落ち込むかもしれない…ウジウジするかも…それにまだ、気持ちの整理も完璧じゃないです…」
小さく弱々しい私の声。ドクドクとうるさいほどに鳴る心臓の音が傑先輩に聞かれやしないだろうか。
「こんな私でも…良いんですか…」
心臓が痛いほどにうるさい、多分緊張しているんだ。
「こんな私でも、傑先輩の彼女になっても…良いんですか…?」
「…それって」
「答え、遅くなって…ごめんなさい」
私を強く抱きしめていた傑先輩の手の力が抜けていく。そして私の両腕を掴みそっと身体を離すと、瞳を見開きこちらを驚いたように見つめていた。でもそれも、すぐにその表情は真剣なものへとかわり、互いの視線が絡まり合う。
「私はどんな君でも受け入れる。どんな君でも、好きだよ」
それはそれは嬉しそうに、そして瞳を細めどこまでも優しい笑みを浮かべた傑先輩は穏やかに私へと輝くばかりの笑顔を見せると、ぎゅっと再び私を優しく包み込んだ。