第20章 厄介ごと
トクトクと聞こえてくる胸の音が心地良い。
「私…傑先輩といると辛いことも忘れて落ち着いた気持ちでいられる」
抱きしめていた傑先輩の身体がピクリと小さく揺れた。
「傑先輩はすごいね」
そう呟いた私の声が、二人しかいない静かな部屋に響き渡る。そして傑先輩はベッドに横たわっていた身体をゆっくりと起こすと、私を見下ろしそして呟いた。
「今から、とてもズルイことをしても良いかい」
落ち着いていて、優しい声。
傑先輩の穏やかな声。
だけれど私は言われた意味が分からなくて、キョトンと傑先輩を見上げれば、先輩は寝転んだままだった私の両腕をグイッと引っ張り上げるとその広い胸の中へと閉じ込めた。
「私は、君を絶対に傷付けはしないよ。悲しい思いも寂しい思いもさせない。大切にする、何よりも、誰よりも、大切にする」
いつも温かな傑先輩の身体が、今はとても熱く感じる。そして先ほどまで私を包んでいたその腕は、力強く私を抱きしめた。
「だからどうか、私の手を取ってはくれないだろうか」