第20章 厄介ごと
抱きしめて眠る。
傑先輩に抱きしめてもらったことは何度もある。抱きしめ合いながら眠ったことも。
でもそれは、互いに互いを利用するという目的の元やっていたことで、どこか割り切っていたから緊張も対してしなかった。むしろ心地良いと思っていたし、あの瞬間だけは嫌なことを忘れられていたのだ。
そう、傷付いた心もすべて。ずっとずっと傑先輩が軽くしてくれていた。
そうして気が付く。今日は傑先輩と手を繋いでから一度も五条先輩のことを考えなくて済んでいる。
ただ楽しく笑い合って、そして傑先輩と一緒にいる心地良さだけを感じれている。
五条先輩がしばらく高専に居ないというのも関係があるかもしれない。だけれど一人でいれば確実に考えてしまうであろう五条先輩への想いを…今だけは考えなくて済んでいたのだと…そう気が付いた。
鍛え上げられた身体、それなのに心地良く温かな傑先輩の体温。
「…傑先輩」
私はこちらを見つめている傑先輩の身体をぎゅっと小さく抱きしめた。