第19章 可愛いひと
ドッドッドッうるさいほどに鳴る心臓を無理矢理ぎゅっと握りしめて、平静を装った。
まだ…全然好きだ…
それを自覚した瞬間、絶望にも似た感情で心の中が埋め尽くされる。普通に話せるようになって、少しは吹っ切れたつもりでいた。でもそれは私の勘違いで…私の気持ちは変わらず五条先輩を好きなままだ。
ただ自分だけが五条先輩を思い続けるのは私の勝手だ。だけれど…私はもうこの想いの辛さに耐えられそうにはない。だったら忘れなきゃいけないんだ…
五条先輩への恋心を消すって選択をしないといけないんだ…でもだからと言ってそんな簡単で無いことも分かっている。
皆んなが待つテーブルへと行けば、そこに傑先輩はいなかった。どうやら夜蛾先生から急ぎの電話が来て高専に戻ったらしい。
何故だかそれにホッとする。今は、傑先輩に五条先輩と一緒の姿を見られたく無かったから…何故だかそう思った。
その後は四人でコンビニに寄ってお菓子やら夜食やらを買った。そこで途中にあるガチャガチャの中に傑先輩似の猫のキャラがいるだの何だの五条先輩と雄ちゃんが言い始めて、その猫が出るまで10回も二人はガチャガチャを回してた。今日は何だか凄く楽しい一日だったなとそう思う。
カプセルの中から出て来たのは何とも可愛らしい猫だった。細められた瞳に上品な顔立ちをした黒猫。
傑先輩に似た、小さな黒猫。
私はその黒猫のフィギアをギュッと握りしめた。