第19章 可愛いひと
「つーか女のくせに口悪すぎんだろ。コイツ泣いたらどうしてくれんだよ」
いや、口に関しては五条先輩にだけは言われたくないのでは…?
「あの、私達はただ…」
「ただ、何?俺らにお近づきになりたかったって?ハッ笑わせんな。お前らなんかこっちは微塵も興味ねぇんだよ。お姉さん達さぁ、よーく自分の顔見てから出直しな?まぁ出直した所で、お前らを相手にすることなんて一生ねぇけど」
興味無さげに冷ややかな視線を落とすと、ゆるりと口角を上げて苛立ったような笑顔を見せた。
キレている…これは完全に五条先輩キレている。
しかしながら私の腹部に回る五条先輩の腕をぎゅっと握り締めたからなのか、五条先輩は彼女達に向けている視線をこちらへと移すと「行くぞ」と言って早々と歩き始めた。
私が歩みを始めたのを確認すると、身体に回していた腕をするりと解き五条先輩は私の前を歩く。
「五条先輩ありがとう」
「元はと言えば俺らのせいだろ」
「それは…だけど私が上手くかわせなかったから」
「別に、あいつらが頭おかしいんだよ」
「…でも、ありがとう」
ドクドクと心臓がうるさい。久しぶりに五条先輩に触れたからだろうか。
自身の制服から微かに五条先輩の香りがする。もうそれだけで胸が締め付けられて苦しいというのに…こんな私を守るみたいなことをされたら…
いや、絡まれたのが例え硝子先輩だったとしても五条先輩は同じ対応をしていたはずだ。何も自分だけが特別なわけじゃない。そんなこと、今まで痛いほど思い知って来たじゃないか。
勘違いするな、私。