第19章 可愛いひと
「くっそ、傑のせいで萎えた。野球終了〜」
グラウンドから戻ってきた五条先輩が私の隣へとドカっと勢い良く座る。
五条先輩との関係を終えて一ヶ月と少し。初めの頃は気まずい雰囲気がダダ漏れだった私達も今では元通りとまではいかないが少しずつ話すようになった。
いや、きっとよくよく考えれば気まずさを持て余していたのは私だけで…五条先輩はそれほどこの関係が終わったことへの気まずさなど感じてすらおらず、どうということもなかったのかもしれない。
だからか、私が変に避けることを辞めれば五条先輩も私をあからさまに避けたりはしなかった。
「喉渇いた」
そう言って私の手元にあったミルクティーの缶が手の中から消えていく。五条先輩に奪われたのだ。
そしてあろうことか五条先輩はそれを当然かのように口元へと持っていくと、ミルクティーをごくごくと勢い良く飲み干した。
「えー…」
思わずそんな声が漏れる。
本当にそういうところだよ、五条先輩。私がいつまで経っても五条先輩を忘れられずにいるのは…好きなままでいるのは…そうやって期待させるようなことをするから…
違うか、勝手に未だ期待して前に進めていないのは私だけだ。
五条先輩は私との関係なんて、とっくの昔に記憶から消したに違いない。だからこそこうして何事もなかったかのような態度で接してくれているはずだ。