第19章 可愛いひと
「どうかした?」
あまりにまじまじと見つめすぎたのだろうか。傑先輩が私の視線に気が付いてにこにことこちらを見下ろす。
「え、あ、いや…なんでも…ない」
カッコイイと思って見惚れていましたなんて言えるはずがない。それも自分を好きだと言ってくれている相手に。
赤く染まった顔を隠しながミルクティーを飲むふりをして何とか誤魔化せば、隣の傑先輩はそんな私を見てくすっと小さく微笑んだ。
「少しは意識してくれているのかな?」
「…………そういうことは聞かないで下さい」
「ふふ、すまない。気になってしまってね」
私の顔を眺めながら嬉しそうに瞳を細める傑先輩。その穏やかな表情が私は好きだ。
強い風が吹く。私の髪がふわふわと揺れ風がおさまったのを合図に、傑先輩が乱れた髪にそっと触れる。
先輩の少しばかり冷えた指先が、火照った私の頬に触れて何だか気持ちが良い。
「…ありがとう」
「いいえ」
髪を整えてくれたことにお礼を言えば、傑先輩は再びグラウンドにいる三人へと視線を戻した。
心地が良い。こうして会話が途切れても、傑先輩と一緒にいるのは何でだかとても心地が良いのだ。
ゆるやかに流れる水を眺めているみたいに、何故だかとても落ち着いた気持ちになれるから。
これが安心っていうやつなのだろうか。心の平穏とでも言おうか…そんな気がする。