第18章 当たり前
夕日が寮の廊下を照らす。オレンジ色に染まったその場所は私と傑先輩の影をハッキリと映し出し、そして静けさの広がるこの空間にゆらゆらと色を足した。
「私と付き合って欲しい」
「………え」
「君が泣く姿は見たくない、君を支えたい。そう思ってる」
「………っ」
「いや、違うか…そんなの言い訳だ」そう小さく呟いた傑先輩は己の感情へどうしようもないなと言わんばかりの少し困ったような顔で微笑んだあと、真剣な表情で私を視界に閉じ込めると、いつものように優しい声色で私の名前を呼んだ。
「君が悟のことをまだ想っているのはもちろん分かってる。それでも私のこの気持ちを知って欲しい。君が悲しんでいる姿をこれ以上見たくないのは本当、でもそれを言い訳に付き合いたい訳じゃない。君の隣にいたい。これから先、君が笑顔を見せるのは私の隣であって欲しい。そして何より、君に私を好きになって欲しいんだ」
「傑…せんぱい…」
「エナ、君が好きだ。どうしようもないくらいに、君が好きだよ」
…傑先輩の目を見れば分かる。いかに私を好いてくれているのか。その表情はどこまでも愛おし気にこちらを見つめていたからだ。…どうして今まで気が付かなかったのか、そう思うほどに。その瞳は穏やかで綺麗な色をしていた。
ドクリっと大きく胸が鳴る。
締め付けられるような…それでいて柔く甘やかなそんな感覚だ。
傑先輩の言葉が胸の中へとすとんと優しく落ちてくる。それがまるで当然であるかのように。
どうしてこの人の言葉はいつもこんなにも真っ直ぐで優しいのだろうか。どうして私をここまで温かに包み込んでくれるのだろうか。