第18章 当たり前
傑先輩はゆっくりと指先を私の顔へと伸ばすと、それが目元に触れる直接ピタリとその動きを止めた。
そして少しばかりの間を開けたあと、ハッとしたようにしてその手先をそっと引っ込める。
きっと今までの傑先輩ならば、目元を優しく撫でて心配気に「大丈夫?」と言葉を落としただろう。でもそれは、少し前までの私達だ。きっと傑先輩は私に遠慮をしたのだ。自分の気持ちを伝えた今、そう簡単に触れてはいけないと。
「…大丈夫です、心配しないでください」
言葉を詰まらず傑先輩よりも先に私が小さく笑いながら口を開けば、傑先輩は少しばかり眉間に皺を寄せ不安気な顔をしたあと、その表情を真剣なモノへと変えるとスッと私を真っ直ぐに見下ろした。
「この前私が言った言葉を覚えているかい?」
「…え?」
「君を好きだと言ったこと」
「うん…もちろん覚えてる」
忘れるわけがない。忘れようがない。
「色々考えたんだ。私の気持ちを伝えたことによって君に迷惑をかけてしまったんじゃないかって。余計な心労を与えてしまったんじゃないかって」
「…っそんなわけない!そんなこと…思ってないっ」
「そっか、それなら良かったよ」
傑先輩は眉を垂れ下げながらも小さく微笑むと、そのまま部屋の入り口に立つ私の前へと一歩歩み寄った。