第18章 当たり前
ギィっと古びた音を上げゆっくりと部屋のドアを開ける。
目の前に立っているのは、やはり心配そうに眉を垂れ下げた傑先輩の姿だった。
「泣いていたのかい」
無理矢理涙は引っ込めたものの、だからと言って腫れぼったい瞼がどうにかなったわけではない。何よりも真っ赤に潤んだ瞳と鼻先が泣いていたことを物語っている。
傑先輩と会うのだって、もちろんあの日以来だ。あの日…傑先輩とキスをして…そして好きだと言われたとき以来。
それなのにも関わらず、傑先輩の声をドア越しに聞いた瞬間何故だかとても安心するような感覚がした。ホッとして、そして苦しかった心が少しだけ軽くなる。
昨日までは傑先輩に会ったらどうすれば良いのだろうかと、そんなことぼかりを考えていたはずなのに。それなのにも関わらず、いざ先輩を目の前にしたら私はこの目の前の人に酷く安心を覚えた。
…最低だ。私は傑先輩の気持ちに応えられてすらいないのに。
「目元が腫れているよ」
やっぱり今回も、私が涙を流している理由を傑先輩が直接聞いて来ることはなくて。ただ私を心配する言葉だけをくれる。
その優しさが私を甘やかしていることに、傑先輩は気が付いているのだろうか。この優しさに溺れそうだとそんな気持ちを抱いている私に、気が付いているのだろうか。