第18章 当たり前
私の言葉に、五条先輩は一瞬こちらを視界に入れると「あぁ」とだけ言葉を返してすぐにまた携帯へと視線を戻した。
無視…はされなかった。それでもほとんど存在を認識される以外の行為はそこには無くて…
私は五条先輩の立つ隣の自販機で急いで炭酸水を購入すると、その場から逃げるようにして急いで寮へと駆け込んだ。
心臓が痛い。それはそうだ、たったの二週間などで何が変わる。少し距離が空いて会わなかったからといって何が変わるんだ。
「…だって…今でもこんなに胸が痛いのに…」
慌てて部屋へと駆け込みバタンと勢い良く閉めた扉へと背を預け。ズルズルとしゃがみ込み頭を抱える。
「…そんな簡単に忘れられるわけ…ないじゃん」
ただ一目見ただけなのに、ただ一言言葉を聞いただけなのに。それも普段よりも数百倍も冷めた視線で…冷めた声色で…ただ同じ空間にほんの一瞬いただけというのに…
それなのにこんなにも胸が痛くて締め付けられる。
私には五条先輩へのこの想いが…これが初めての恋。
初めて人を好きになって、初めてこんなにも甘くも苦しい感情を知ったから。だからこんなにも痛いんだ…
ギリギリと奥歯を噛み締める。そんなことで何かが変わることはないとわかっていても、ただひたすらに胸の痛みと向き合う他ないのだ。