第18章 当たり前
コツコツと足音を響かせ二人並んで寮の廊下を歩く。時折聞こえてくるギシギシと古い木を踏み締める音は、この寮がいかに年代ものかを表しているようだ。
「少しは元気になりましたか」
「…っえ?」
突然の七ちゃんの言葉に前を向けていた視線をパッと彼へと持ち上げれば、七ちゃんはこちらを見つめることなくそのまま目の前を真っ直ぐに見据えている。
「近頃元気が無いように見えたので。多分灰原も気が付いていたはずですよ、だから今日突然こんなことを言い出したんでしょう」
そっか…気づかれていたんだ。そうだ、二人が気付かないはずがなかった。常に一緒にいる私達が、互いの変化に気が付かないはずが無い。理由までは分からないにしても、その変化には気が付いたはずだ。特に私は隠し事が上手いわけでもないのだから。
「ありがとう、気を使わせちゃったね」
「それは違います、私も灰原も気を使った訳じゃありません。心配なんですよ、何かあったんじゃないかと心配していたんです。たった三人の同期なんですから、心配くらいしますよ。特にあなたは無茶をする性格ですしね」
食堂のシンクへとガチャガチャと食器を置いてそれらを手早く洗い流す。二年もここで生活をしていたら、これも慣れたものだ。
「五条さんですか、それとも夏油さん」
二人の名前にピクリと身体を揺らす。
「…どうして」
「五条さんとは以前から何かあるような気はしていましたし、夏油さんとは最近仲が良さそうですからね。二人で話している所を何度か見かけたので」