第18章 当たり前
我慢強い方ではあると思う。好きで好きでたまらない人のセフレを続け、好きな人に何人も相手がいると知った上で失恋確定の恋を拗らせ続けてきたくらいだ。
切ないのには慣れている…苦しいのにもだ。
まるで心の奥底にポッカリと穴が空いたようだったとしても、私はこの苦しさにすら多少の耐性があって慣れてしまっているのだ。
そう思うと…なんて無茶な恋をしていて、どこまでも無謀な恋をしていたのかということを馬鹿みたいに理解してしまった。
むしろ…慣れないのは傑先輩に告白をされたことだ。誰かから己が恋慕われ想いを寄せられているなど…未だかつて経験したことがない。なんなら想像すらしたことがなかったし、こんな狭い業界で私を好いてくれる人物が現れるとは思ってもいなかった。
それも、イケメンで最強で性格も良くて私とは天と地ほども違う人間としての器さえも大きい夏油傑からだ。
食堂の扉へと手をかけてそれを押し開ける。ギィーと古びた音を上げ開いた扉の先へと足を踏み出しながら緊張で震える指先に力を込めてゴクリと唾を飲み下した。
「…大丈夫、いつも通り」
辛いのには慣れている。そう、だから大丈夫。
笑え、いつものように。
例え五条先輩を見て胸が潰される思いでも、傑先輩が以前のように優しい笑みを作ってくれなくても。笑え、私。