第17章 それは突然に
目の前には50センチほどの子虎がいたのだ。先ほどまでの大きな虎ではなく…子虎が。
「小さくなった…?」
子虎は先ほど同様スリスリと私の足元へと頬を擦り付けた後、すでに開いていた部屋の中へと当然のように私を追い越し入っていく。
「え…?」
私はそれに慌てて後を追いかければ、子虎は部屋をぐるりと見渡したあと、何の躊躇いもなくベッドへとピョンっと飛び乗りそしてこちらを見つめてくる。
いや、可愛いな。
素直にそう思う。だけれどこれは紛れもない呪いの塊なのかと思うと、そのチグハグさに混乱しそうになった。
呪いは人間の負の感情で出来ている。だけれどそれは…誰しもが負の感情だと意識し生まれたものだけではない。
無意識、曖昧な気持ち、悲しみ…そんなものからだって呪いは生まれてしまうのだ。
憎しみや怒りだけではない。人の思い出となりやすい場所には呪いがふき溜まってしまう。たとえその中にキラキラとした美しい思い出が含まれていたとしても…それは時に牙を向き、まるで元々そうであったかのように呪いへと変化してしまう。
呪いの種類や状況によって、その姿形も似せたものへと変化していく。酷く醜いものから、呪術師が指先一つ触れただけで壊れてしまいそうな些細な呪いまで。
この子虎は…元は綺麗な思い出や感情がいつしか濁り荒んで出来たそんな曖昧な呪いなのかもしれない。なんとなくそんな気がする。