第17章 それは突然に
先ほどまでのことが現実だとは思えないほど、流れるように自室へと着いてしまった。
傑先輩と、もっとちゃんと話し合うべきだったのに。
でも一体何を。何を話すの?さっきだって何と言ったら良いか分からなかったのに。一体何を話し合えば良かったんだろう。
だけれどあのまま傑先輩の部屋を出ても良いとは思えなかった。だって部屋を出た時の傑先輩の顔が忘れられない。
眉を垂れ下げ、困ったような…そしていて悲しんでいるような…どこか後悔を滲ませたその表情を、簡単に忘れることは出来そうになかった。
傑先輩が私を好きだなんて何だか現実的ではない。そんなこと、想像すらしなかった…私は何も知らずあの優しい温もりに包まれることが当たり前だとすら思い始めていたんだ。
胸がぐずぐずと疼くみたいな感覚がする。それでいて、ぎゅっ心臓が握られたみたいだ。それは一体どんな感情なのか…今の私には到底分かりはしなかった。
「送ってくれてありがとう」
私を下ろした虎へと振り返りそう声をかければ、虎は私の足元へとすりすりと擦り寄ったかと思うと、はぁーっと息を吐くようにして白い霧を吐き出した。
「へ?」
そしてその微かな霧が晴れたころ、私は目の前を見て唖然とする。