第17章 それは突然に
「…ごめん、出来ない」
それは静かな声だった。傑先輩の静かな声が二人だけのこの空間に響き渡る。
瞑っていた瞳を開き真上を見上げれば、そこには私を見下ろす傑先輩の姿。
その表情は、先ほど見た真っ直ぐな瞳とは違って…眉を歪ましそして今にも泣き出してしまいそうなほど悲しい顔をしている。
こんな彼の姿を見たのは初めてだった。
いつだって強く堂々とした人物だとそう思っていた。
それなのに優しく穏やかで大人な人だなと思っていた。
でも今見ている目の前の彼は、私の知っている傑先輩のそのどれにも当てはまりはしなくて…
ただ目の前の傑先輩を見つめた。そして先輩は躊躇うように閉じていた唇をゆっくりと動かす。
「君が好きだから出来ない」
「……っ」
「私は君が好きなんだ、ずっと好きだった。だからこんな形でこれ以上君に触れることは出来ない…ごめん」
傑先輩の静かな声が私の胸に落ちてくる。
そして先輩は私の頬へと手を伸ばすと、そこを親指の腹で撫でるようにそっと拭った。
「それに…こんなにも涙を流している君を、やっぱり抱けないよ」
目の前で切な気に眉を歪ます傑先輩が滲んで見える。その瞬間…自分が泣いていることに気がついた。
どうしようもないほどに涙を流していることに、気が付いた…