第17章 それは突然に
小さな水音とリップ音を響かせながらそっと唇を離す。
目の前の傑先輩の唇は微かに濡れており、先ほどまでの行為を表しているようだった。
私は弱い…
どうしようもなく弱くて…
「傑先輩…たすけて…お願い」
そして、どうしようもないほどにズルい人間だ。
傑先輩は先ほどまでの驚いた表情でも、私の突然の行動に怒った表情も素振りも見せはしなくて、ただ真っ直ぐと私を見つめながら先輩の学ランを掴んでいる私の手の上に重ねられた傑先輩の手が微かに動いただけだった。
「本気かい?」
それは低く良く通る声だった。
いつもの優しさの含まれた声というよりは、少しばかり困惑が含まれた揺れるような声だったように思う。
「…本気だよ」
悲しみや切なさよりも苦しさが優った。
息苦しくて呼吸をするのさえも億劫で、そして頭の中が爆せたみたいに何も考えられはしなかった。
苦しい
痛い
辛い
馬鹿の一つ覚えみたいにそればかりが頭の中を支配していて、そのどうしようもない感情と理性の狭間で、私はただ傑先輩を見上げた。
「傑先輩…」