第17章 それは突然に
それからしばらくして高専へと着いたのか、再び手を引かれ呪霊から降りると寮へ足を踏み入れる。
「今日は疲れただろう、部屋に戻れそうかい?」
俯いた頭上から傑先輩の声が聞こえて来る。それでもなお私は声を出す事が出来なくて…ただ先輩の声をじっと聞いていた。
だけれどしばらくすると、冷え切った私の右手をぎゅっと温かな手が包み込んでまた傑先輩は私の手を引いて歩き出す。
「入って」
ギィーっと古びた音を上げて開いたのは傑先輩の部屋の扉だ。何度も来た傑先輩の部屋。パタンと後ろではドアが閉まる音がして、先輩はそのまま私の手を引くとベッドへと座らせ自身もその隣へと腰掛ける。
でも傑先輩は私に何も聞いてこない。
ずっとそうだ。
高専内に唯一ある自動販売機の前で、深夜涙を流す私に対しても。傑先輩はずっと何も聞いて来なかった。
私が何故泣いていたのか、きっと初めてあそこで会った時から先輩は気が付いていたはずなのに。
その優しさが温かかった。
その優しさに頼り甘え、そして自分の心を保つための麻薬にすらなっていた。
だから、だろうか…
「傑…せんぱい…」
私は震える手で傑先輩の手を握り、そしてその切長な瞳を見上げた。