第17章 それは突然に
惨めなんてもんじゃなかった。
私は何も気が付いていなかったのだ。ここ二週間五条先輩が私へ会うことがなかった間。
何も…だ。
「…エナ」
ただ唖然と立ち尽くし、そこからピクリとも動けずにいる私へと傑先輩が名前を呼ぶ。私の名を呼ぶ声が耳の遠くの方で聞こえてくる。でもダメだった。それでも反応は出来なかった。
いつも安心感を与えてくれる傑先輩の声ですら、今の私には到底届きはしなかった。
それから、どれほどその場で立ち尽くしていただろう。
気が付いた時には傑先輩が私の手を軽く引くようにして人混みから離れた場所へと移動していて、裏路地へと入った時には私の身体はふわりと宙に浮いていた。
傑先輩が私を抱き上げ移動型の呪霊に乗ったからだ。
冷たい風が身体を刺すようだった。
まるで私の心の中のようだ。
それでも涙は出なかった。
何故なのか…それすら分からずにいた。