第17章 それは突然に
目眩がした、この場に立っていること自体が苦痛で…そしてじんわりと掌から汗が滲んで来るのが分かる。
吐き気がした、目の前の女性の甘い声を聞いた瞬間…私が未だ呼ぶことが出来ていない五条先輩のその名前をいとも簡単に呼んでみせることに。
分かっている。自分にそんな事を考える権利などないことは。
分かっている。そんな事を言える立場ではないことも。
「こっちの子はお兄さんの彼女?」
それはどこか楽しそうに、何故そんな事に興味を持つのか分からないがそんな言葉が落とされる。
それはそうか。私から見たら五条先輩と腕を絡めている女性は五条先輩のセフレであることは分かるけれど、私はあくまで今は傑先輩の隣に立っている一人の女子でしかない。
それにしてもその言葉は傑先輩に対して失礼だ。
だけれどそんな女性の言葉に傑先輩はやはり反応一つ見せることなく否定すらしないままで「違げェよ」そう答えたのは女性の隣にいる五条先輩だった。
二人が話している姿など見たくは無いはずなのに、思わずそちらへと視線が向いてしまう。
「えー、もしかして悟君の彼女だったり〜?」
やめてくれ、冗談でも五条先輩の前でそんなこと言わないでくれ。
「それも違う」
「んー、じゃあもしかして」
もうやめて、本当にやめて。聞きたくない。
五条先輩は何も間違ったことは言っていない、私は五条先輩の彼女ではないし、彼女にはなれない。
それでもなお…それを否定し拒絶するような言葉は聞きたくなかったのに…