第16章 その気持ちが
完璧なまでの美しい笑みが私を穏やかに見下ろす。
「良いの?でも…」
「大丈夫、今日私の部屋の階は皆んな留守なんだ。私しかいない」
私が言うよりも前に傑先輩からそう告げられ、少し考えた後こくりと頷いた。
…もう少し、傑先輩と一緒にいたい。
…今日は、何だかとても一緒にいたい。
嬉しそうな傑先輩の顔を見たからだろうか。心底嬉しそうに楽しそうに飾り付けを褒めてくれたからだろうか。
それとも、手渡したプレゼントを宝物に触れるみたいに大切に大切に受け取ってくれたからだろうか。
そんな先輩の表情はどれもこれも私の心へと真っ直ぐに届いた。とても穏やかに、そしてとても温かく。
「行こうか、部屋」
「うん」
手を引かれ、その大きくゴツゴツとした傑先輩の掌を握り返した。それはいつだって私を安心させてくれる温もりだ。
二人で手を繋ぎならが廊下を歩く。日の差す時間帯ならばこんなことは普段あり得ない。何故ならば硝子先輩を除いて私達の関係を知る人間など居ないからだ。
そう思えば、外でこうしていることがとても不思議な感覚でそして新鮮に思えた。
「そう言えば、もう一つのプレゼントもありがたく受け取ったよ」
「…気が付いた?」
「もちろん、気が付かないはずがないだろう」
「へへ、何か今更だけど恥かしいかも」
「直ぐになれるよ、きっとね」
クスリと綺麗に笑うその表情を見て、照れながらも私も釣られるようにして笑みを作った。
傑先輩と名前を呼ぶのも
敬語無しの親しい言葉遣いをするのも
やっと慣れて来た。
傑先輩と同じ時間を過ごす度、私達の距離も近付いたように思う。
これが私からのもう一つのプレゼント。
傑先輩が自分で望んで我儘を聞いてくれるかい?と言ってくれた、先輩の為のプレゼント。