第16章 その気持ちが
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その変化に気が付いたのはいつからだっただろうか。
少し前…いや、もっと前だったのかもしれない。
ただ、それを見て見ぬふりをした。
そうでないと、己が己では無くなってしまいそうだったからだ。
仲良くしている姿を何度か目にした。
親友の見たことのないその穏やかな表情に思わず目を疑い、その次の瞬間にはその視線が向けられる先を見て動きを止めた。
得体の知れない感情だった。
他人に全くと言って良いほど興味が無く執着すら見せぬその人物が、後輩である一人の人物を穏やかに見つめていることが。
しかし理解出来ない訳ではなかった。何故ならば、それは五条とて知らぬモノでは無かったからだ。
それなのにも関わらず、五条はそれを認めるすべが無かった。
だからだろうか…
だからこうなったのだろうか。
自身の乱れる感情が不快でならない。
原因は分かっている、それなのに理由は少しも分かりはしなかった。
どうしてこうなった、何故こうなった。
何故苛立つ、何故腹の奥底にモヤが掛かったような感覚がするんだろうか。
深夜、寮の入り口で楽しそうに微笑みながら抱き合う親友と後輩の二人を見て五条は思う。
まるで自分らしくない。
自分らしいって何だ。
気分が悪い
女に執着などしない。それが自分だ。
そうだ。そうだったはずだ。
どうって事ない出来事なはずだ。
そんなこと、自身が一番分かっているはずなのに。
苛立ちが己を支配し、そして腹の奥底から黒い何かが湧き上がって来る感覚さえした。
やはりこんなの、らしくない。
そう思ってしまうほどに。
今の五条は、自分がどうかしていると思わずにはいられなかったのだ。
とてもじゃないがこんな得体の知れない感覚を、五条は受け入れることなど出来はしなかった。
何故なら五条は、その感情を知らずに育ったのだから。
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