第16章 その気持ちが
本当は2時間半以上だけど…とは口が裂けても言えない。
包まれた身体が温かい。
傑先輩の香りに安心感を覚え、怒られているにも関わらず安慮するようなそんな感情がふと心の中に生まれる。
「女の子が身体を冷やしちゃダメだろう」
「うん、ごめんなさい」
「これから待っている時は連絡して。そしたら急いで帰って来るから」
「…うん、わかった。でも迷惑じゃない?」
「迷惑なわけがないだろ、むしろ喜んですっ飛んで帰るよ」
そう言ってぎゅっと抱きしめていた身体から少し力を抜いて、こちらに顔を向けた傑先輩はいつも通り優しい笑みを作っている。
「だけど、待っていてくれたことは凄く嬉しいよ。本当に嬉しかった」
それが心からの言葉だと言うことは聞かなくても分かった。だからこそ、私は傑先輩に心配をかけてしまったのだろうということも。
怒らせちゃったかな…と思った次の瞬間にはこうしてフォローを入れてくれるのが傑先輩らしいなと思う。そもそも全部私が悪いんだけれど…
「これからは連絡する、先輩も心配してくれてありがとう」
「うん、そうしてくれると嬉しいよ。こちらこそ祝ってくれてありがとう」
反省した気持ちのまま傑先輩を見上げれば、先輩は私の頬にそっと触れそれを温めるようにして両手で包んだ。