第16章 その気持ちが
「そうだ、まだ傑先輩に見てもらいたいものがあるんだよ。来て!」
先輩の手を引き歩き出そうとした。だけれどその手はピクリと小さく動き私の手をぎゅっと強く握り返す。
「…冷たい」
「え?」
傑先輩の声が落ちてきた時には先輩の手を引いていたはずの私の体制は逆転していて、今度は先輩が私の手を引いて早足で歩き始める。
途端、寮の入り口にはいるなり私の手を引いていた傑先輩の腕にギュッと強く力が込められ包み込まれるようにして抱きしめられていた。
「…先輩?」
一体この一瞬で何が起きたのだろうか。あまりに突然の出来事過ぎて理解が追いついていない。
少しばかり掠れた声が聞こえる。それは優しくて、心配気な傑先輩の声だ。
「一体いつからあそこにいたんだい」
私の首元に顔を埋めるようにして、身体をその大きな腕で全体を包み込む。
「身体、冷たくなってる。凄く」
「…そんなに待ってないよ」
嘘だ、本当はずっと待っていた。
ずっとずっと、待っていた。