第15章 浮遊感
そう言いドライヤーへと髪を当て続ける五条先輩の表情は、やっぱり何を考えているのか分からないけれど、でもどうやら私の言葉で機嫌を損ねたわけではない事だけは分かった。
五条先輩が調子が狂うと言うほどのことを、私が理解し納得のいく答えを見つけ出せるわけがない。でもそれは決してマイナスなことなんかじゃなく、五条先輩がこうして私に触れてくれることならば、理解など出来なくても良いのかもしれない。
先輩の言う通り、私が五条先輩の頭の中を上手いこと理解するなんて絶対に無理だ。天才の考えは凡人には分からない。しかも、七ちゃんに言わせてみれば私は普通の人よりも遥かに鈍いんだとか言われたこともある。
それならばやっぱり私には到底無理な話で、それでもこうして五条先輩の温もりにふれて、ぐったりたしている私を嫌な顔一つせず世話を焼いてくれるのだから、これほどまでに嬉しくて飛び跳ねたくなるようなことはないだろうとそう思った。
「五条先輩って実は優しいよね」
「実はは余計だし、そもそもお前の目節穴なの?俺が優しいとか全人類優しいって言ってんのと一緒だぞ」
自分でそれを言うんだ。なんて思いながらもクスクスと笑う。だけどやっぱり、私にとって五条先輩は優しい存在なのだとそう思わずにはいられなかった。
少しだけ期待する。私は五条先輩にとって、少なからず世話を焼いても良いと思ってくれた相手なのだと。