第15章 浮遊感
「何かあった?」
明らかに戻ってこない私と、動揺している旅館の人を見て、ロビーのソファーに座っていた五条先輩がやってくる。
「部屋が一部屋しか取れてなかったみたいで」
そう答える私の目の前では、突然現れた派手な顔付きのイケメン大男に受付にいたお姉さんが目を丸々と丸めたあと、その整いすぎた顔面にポッと頬を染めた。
それもそうだ。都会ならば様々な髪色をした人やカラコンをした人など沢山いる為、少なからず五条先輩がそこらを歩いていても少しは周りに溶け込めているが…いや、そんなこともないか。いつも信じられないほどに目立っているか。
でもやっぱり、こういった場所ではさらに目立つのは仕方のない事で、現に先ほどから受付に来たおじいさんやおばあさんに「まぁハンサムで背が高いわねぇ」「有名人かしら?」なんてコソコソと噂をされている始末だ。
だけれど五条先輩はやはりそんなことなど気にも止めないのか、目の前で明らかに頬を染める女性すら無視し、私を見下ろすばかりだった。
「別に一部屋で良いでしょ、何か問題あんの?」
「え?良いの?」
「何を今さら」
いや、それはそうなんだけど…そりゃあいつも五条先輩の部屋で二人きりお泊まりをしている時点で何の問題もないのだが…今日はあくまで任務で来たわけで。