第14章 堕ちてやる
「違う…」
「違う?」
目の前の碧色を見つめそう呟くと、首を傾げた五条先輩が心配そうに私を見下ろして来た。
いや、違うか。五条先輩の形をしたナニモノか…だ。
「はは、私ってば本当に馬鹿だ」
こんな夢を見て何になると言うんだろうか。こんなモノ、何の意味など無いというのに。現実では無い、ただの夢物語だ。
私の作り出した幻、全てが嘘の世界。
上も下も右も左も、目の前にいるこの人でさえ全てが嘘だ。
「私の大好きな五条先輩は、こんな瞳じゃない!!」
私の大好きな先輩の瞳は、こんなんじゃ無い。例えそれが…私の欲しい色では無かったとしても。
それでも私が大好きなのは、この目の前にいる私の欲望で固めた嘘の先輩などでは無いから。いつも自信に満ち溢れた、少し意地悪で、だけれど実はとても優しい、そんな五条悟なのだ。
その瞬間、視界の全てがぐにゃりと歪む。真っ白だった世界はいつの間にか私の描く世界へと変わっていた。そして今は黒くドロドロとしたモノへと変わっていく。
術師の望む世界を見せ、そしてこの世界へと閉じ込める事が目的だったのだろう。だから今、その正体に気が付いた私を無理矢理この世界へと閉じ込めようとしている。