第14章 堕ちてやる
ずっと違和感には気が付いていた。
何かがおかしいって。
でもそれでも、何処までも心地良くて…そして何処までも幸せだとそう思っていたから。
私の為に時間を作ってくれるのも、みんなの前で堂々と手を繋げるのも、甘く優しく名前を呼んでくれるのも、当たり前みたいにデートが出来るのも。
でもそれは結局、ただ全てが私の自己満足なのだ。まるでおとぎ話の絵本の中に入ったような気分だった。まるで私が思い描いていたモノそのもので。
胸がキリリと痛む。
呼吸が浅くなって、そして今にも息が止まりそうだった。
「エナ?」
私がどうして五条先輩を好きになったのか、そんな明確な理由なんかないけれど、彼の何処が好きかなど、そんなの数えきれないほどにある。
意地悪気に笑うその表情が好きだ
自信に満ち溢れたその背中も
怒られても曲げずに己の思うまま突き進むその姿も
実は後輩を大切に思ってくれているところも
時折見せてくれる気の抜けた姿も
私の名前を呼ぶその声も
抱きしめてくれる温かな熱も
全部が好きだ、五条先輩の全部全部が好きだ。
そして何よりも…
こちらを真っ直ぐに見つめてくれる、あの碧が私は大好きだ。