第13章 その笑顔
服がずぶ濡れになっていく。こんな感覚いつぶりだろうか。それもそうだ、普段なら無限を張っているから。だけれどこの時の俺はコイツに腕を引かれながら、服を濡らしていた。
何故だったのか、今なら少し分かる気がする。
息が切れるほどに走って寮の前へと着けば、俺を見上げそして困った様な笑みを作ったのだ。
「びしょ濡れになっちゃいましたね…」眉を垂れ下げ小さく微笑むその姿が、何故だか無性に儚く見えて…
それは何処までも俺を苛立たせ…そして騒ぎ立てた。
だからなのか…気が付けば強くその細い腕を引気寄せ、噛み付く様にして目の前のコイツの唇を塞いだ。
薄らと血が滲む唇から鉄の味がする。だけどその時はそれすら甘く俺自身を麻痺させた。
感じた事もない感情だった。
苛ついて
腹が立って
溜息を吐きたくなった。
それなのにも関わらず
その身体に触れたくて
熱を感じたくて
抱きしめてしまいたかった。