第13章 その笑顔
俺はどうかしてる。コイツに対してだけは、他の女と同じようには出来なかった。
それどころか、こうして自身の腕の中で眠るコイツを見て…少なからず心地良いとすら思っているのだ。
この関係が始まったのはいつだっただろうか。
確かコイツと任務の帰り、高専に丁度帰って来た時だ。俺からしたらどうってことない、そんな些細な事の一つだった。
「五条の跡取りに、今から媚び売っといた方が良いんじゃね?そうしたら将来昇進も楽になるかもな〜!」「でもアイツ相当性格悪いらしいぞ、甘やかされて育ったんだろ。苦労も何も知らねぇお坊ちゃんは気楽で良いね」
そんなくだらねぇことを吐き捨てる馬鹿の声が聞こえて来て、俺からしたらそんなこと日常茶飯事だったし、どうでも良かった。
だけれど隣にいたコイツからしたら、それは違ったようで…そいつらの言葉を聞いて酷く傷付いたような顔をしていたっけ。血が出るほどに唇を噛み締め拳を握って。
女のくせに今にも野郎に掴みかかってしまいそうなコイツへと「相手にすんな、言わせとけ」と口にすれば、その瞳は悔しさうに揺れそして俺の腕を強く引いた。
空からは雨が降り注いでいるというのに、俺の手を引き走り出した。