第13章 その笑顔
何故女を抱くのか
ただ行き場のない熱を吐き出したかったからだろ。
そうだろ、そのはずだろう。
それ以上でもそれ以下でも無かったはずだ。
それなのに…コイツといると調子が狂う。
苛立って、余裕すら無くなって、腹が立つ。
コイツを抱くたびに感じるその違和感が、自身を掻き乱す…何度も同じ相手を抱かないと決めていたはずなのに、手放せないのは何故なのか。
そんな心のモヤを、まるで掻き消すかのように他の女を何度も抱いた。
意味のない行為だ、ただ欲を吐き出す為だけの。
それなのにどうして…
「ん…ごじょ、せんぱい…?」
寝ぼけたようなゆるりとした声が俺の名前を呼ぶ。薄らと開かれた瞳は、目尻を下げるようにして穏やかな笑みを作ると
「ふふ、おはよぉ」
まるで陽だまりのような純粋な笑顔。
俺にこんな純粋な笑顔を向けて来る人間など、未だかつていただろうか。
まるで自分が自分じゃ無いようでイライラする。
それなのに、今はこの温もりに触れていたい。
ただ単純に
コイツの笑顔を
見ていたい。
「…ーエナ」
掠れるような声が響いた。
自分らしく無い、そんな優しい声だ。