第13章 その笑顔
「こんな所で何してんだよ」
高専の石畳の階段を登り切った所で、木に寄りかかり空を見上げていた人物がこちらへとゆっくりと振り向いた。
「へへっ、五条先輩が帰って来るのが分かったから」
その笑顔は、俺の先ほどまで荒れていた心を少なからず落ち着かせた。
「呪力感知、ザルじゃなかったんだ」
「これでも準一級術師ですから」
「それにしてはすぐ死にかけるけど」
「それはそれ、これはこれ。それに今日の五条先輩の呪力はダダ漏れだから、みんな気が付いてると思うよ。何かあった?」
「別に」
明らかに機嫌の悪い俺に対して「そっか」と、それ以上何かを聞いてくる事なくニッコリと笑顔を向けた目の前の人物は、俺の横へと並び歩き始める。
「五条先輩、着物似合ってるね」
本家を出て無理矢理帰宅したせいで着替える時間も無かった。こんな姿を見たならば、一体何があったのか一目瞭然だろうに。
それをたった笑顔一つで、何でもなかったみたいに笑い飛ばしてくれることに心地よさを感じている。
いつからだろうか。こう感じるようになったのは。
初めからだったように思うし、最近のようにも思う。