第12章 黒い玉
以前もこうして一緒に空の散歩をしたことを思い出す。そんなに前のことではないはずなのに、私達の距離はあの時よりもグッと近づいた。
優しくて頼りになって強くて憧れの存在だった先輩が、今では一緒にいると安心出来ていつも私を支えてくれて、そして…時々可愛いところがあるのも知った。
そんな、普段見せない傑先輩を見せてくれるのが嬉しくて、自分だけ知っている先輩のようにすら思えて。それにたまらなく優越感さえ感じている。
「寒くないかい?」
そしてもう一つ変わったことがある。
「うん、平気です。傑先輩は大丈夫?」
あの時と違って、傑先輩が私を背後から包み込むようにしてギュッと強く抱きしめてくれているということ。
その温かな温もりに、私は何度も救われそして助けられた。
「大丈夫だよ、エナが温かいからね」
「良かった。あ、ポケットにホッカイロ入れてるんだった!傑先輩手出して下さい」
「こうかい?」
背後から私を抱きしめていた傑先輩は、私を抱きしめたままお腹の前に回っていた手をパッと開く。
私はその上にホッカイロを乗せると、傑先輩の両手ごと包み込むようにしてギュッと握りしめた。