第12章 黒い玉
そんな先輩を見つめながらも、そう言えば元々の私の用事はここで温かい飲み物を買うことだったと思い出す。
自動販売機へと歩みを進めポケットから小銭を取り出そうとした所で、私の真後ろからスッと長い腕が伸びてきてチャリンチャリンと自販機の中へとお金が落ちていく。それにゆっくりと顔を持ち上げれば、未だ耳へと携帯を当てたまま傑先輩が小銭を自販機へと入れていた。
「…??」
飲み物を買いたかったんだろうか。そんなことをぼんやりと考えていると、傑先輩の綺麗な指先がピッとホットミルクティーを押して、そのままガコンガコンと大きな音を立て缶が落下する。
背の高い腰を折り曲げそれを手に取ると、私へと手渡し電話をしながらニッコリと綺麗な笑みを作った。
「え、良いんですか?ありがとうございます」
まさか私へ買ってくれていたとは思わなかった。そんな傑先輩へと小さな声でお礼を言えば、やっぱり傑先輩はきゅっと口角を持ち上げ優しく微笑む。
うん、本当顔もイケメンだしやってる事もスマートイケメンすぎる。しかも私が買おうとしていた大好きなミルクティー。
本当、こんなんじゃ女の子は勘違いして即落ちだろうな。そう思うと、傑先輩って罪な男なのかもしれない。まぁ私は傑先輩に好きな人がいるって知っているから、そんな心配は無いんだけれど。