第12章 黒い玉
その表情はとても優しく穏やかで、先ほどまでの疲れは嘘みたいに晴れやかな顔をしている。
何だか、胸の辺りがムズムズする。何でだろうか…
“傑先輩”と名前を呼ぶことには慣れてきたはずなのに、先輩に“エナ”と呼ばれるのはまだ慣れない。
胸の辺りがギュッとして、何だか忙しなくて少しばかりくすぐったい。それなのにどこか苦しくて握りしめたく感じるのは何故だろう。
「分かりました、じゃあ傑先輩が私の所まで取りに来てね」
「うん、そうさせて貰おうかな」
明日任務が終わったら速攻でコンビニに行こう。定番から最新のお菓子を買い占めて、どれが一番スッキリするか試してみよう。傑先輩はどんなお菓子が好きかな、どんな味が好きなのかな。
二人でニコニコと笑い合っていれば、ブーブーっと携帯が着信を知らせる音を上げる。それはどうやら傑先輩の方から聞こえてきていて「はぁ、邪魔をするなよ」と小さな声で呟くと、私に「ごめんね」と声をかけてから着信ボタンを押した。
多分補助監督からだろう。未だ学ラン姿の傑先輩は、恐らく任務から帰ってきたばかりだろうし。緊急任務の収集とかじゃなきゃ良いけど、傑先輩疲れてそうだからこんな日くらいゆっくり休んで欲しい。