第12章 黒い玉
術師の分だけ術式が存在する。そして、その術式は己にしか分からない悩みがもちろんあるのだ。
私自身そうだった。小さい頃は呪力コントロールが上手くいかず、爆発させるつもりの無い物を爆発させてしまった事もある。
お皿やコップ、お気に入りのおもちゃ、友達の大切なノート。苦しかった、どうして自分は上手く出来ないのかと。痛かった、どうして私の術式はこれなのだと。
小さい時は自身の術式が苦痛でしかなくて、上手く出来なくて…傷つけたく無い物を傷つけ続けて…
でもそれも、大きくなるにつれ呪力のコントロールが出来る様になってきたと同時に不用意な爆破は起きなくなった。
でも傑先輩は違う。この呪霊を丸めた玉は大人になったからといってどうにかなる問題ではない。その味も、嫌悪も、苦しい気持ちから逃れることは出来ないのだと思う。だから…だからきっと…傑先輩は今も苦しくて辛いままだ。
呪いが消えない限り。この世界から呪いが消えて無くならない限り、きっと傑先輩は呪霊を飲み込み続ける。
だってそう言う人だ。
呪術師が辛いなら呪術師を辞めたって良い。そんな人腐るほどいる。この恐怖に打ち勝てず、死にゆく人々をこれ以上目に焼き付けたくなどないと。
でも傑先輩は、その道を選ぶことはないだろう。
そういう人だから。