第12章 黒い玉
傑先輩の隣へと腰をかければ、傑先輩はキョトンとした表情で私を見つめる。
だけれどその目元には薄らとクマが出来ていて、やはり疲労を感じさせた。
傑先輩はいつもどうしていたっけ。私を慰めてくれる時…確かこうして何も言わず側にいてくれた。それだけでただ心が温かくなって落ち着いたのを思い出す。
けれど、それを傑先輩がやってくれたからといって今の状況にそれが相応しいかは分からなくて…
私は傑先輩の片手をギュッと握りしめた。
「どうしたんだい?」
穏やかで静かな声が耳元へと落ちる。
でもそれは私のセリフだよ、先輩…
私が手を繋いでいるのとは反対の手には未だ黒い球が握られたままだ。
傑先輩の呪霊操術により呪霊を丸めた呪霊玉。
傑先輩はそんな私の視線に気が付いたのか「あとで取り込もうと思ってね」と言葉を漏らすと切長な瞳にグッと軽く力を込めた。
「それ…どんな味がするんですか?」
ずっと気になっていた事だ。でも興味本位で聞けなどしなかった。そんなことを聞ける仲ではなかったというのもあるし、軽々しく聞いて良い様なことだとも思えなかったからだ。
だけれど、今だってただの興味本位で聞いたわけではもちろんない。
理解したいと思った、傑先輩の感じているモノを。知りたいと思った、傑先輩がこんな顔をする理由を。分かりたいと思った、傑先輩のことを。