第12章 黒い玉
「任務の帰りかい?お疲れ様」
私の声に反応した傑先輩がパッと顔を持ち上げにこりと微笑む。
しかしその表情はどこか疲れているようにも見えて、私が声をかけた事によって無理させてしまったかもしれないと直ぐに思った。
傑先輩のこんな顔を、初めて見た。
いつもは穏やかでにこやかで優し気で…いつだってそう見えていたから。今だってもちろん優しく笑ってくれてはいるが、でもそれは無理をしている様にも見えた。多分それは…傑先輩と一緒にいる時間が増えたからこそ気付けたのかもしれない。
だけれどそれは、今までそう見せていただけなのかもしれないと気が付く。何故ならば、そんな完璧な人などはいないからだ。いつだって疲れ一つ見せることなく完璧な人なんていない。それに私達はまだ高校生なのだから尚更に。
いくら傑先輩が優しく大人っぽかったとしても、それはあくまでそう見えているだけだったのかもしれない。
成人していない高校生であることには変わりなくて、傑先輩は私と一つしか歳の変わらない学生なのだから。
自分はいつも傑先輩に支えてもらってるくせに、それに気が付いていなかったどころか、何も返せていなかった事実に酷く胸が痛んだ。