第11章 無意識に
「もう一度言って…」
「へ?」
「名前」
「あ」名前…
枕にうつ伏せて顔を付けたまま、こちらを見て薄らと瞳を開いた傑先輩の顔は、昨日名前を呼んだ時とは違い酷く照れた様子はなくむしろ落ち着いて見える。
「傑先輩、おはよう」
昨日に引き続き照れたようにそう声を出した私を、傑先輩はにっこりと嬉しそうな表情を向けると「エナ、おはよう」と、やはり昨日とは違い先輩はサラリと私の名前を呼んだ。
どうやらあんなにも真っ赤になって照れていたのは昨日だけらしい。これが、異性への慣れの違いなのだろうか。私はまだまだ慣れそうにもないというのに。
今日は一限目から座学の授業が入っていて、いつも通り傑先輩が私を部屋のドアまでお見送りに来てくれる。あくびをしながら軽くボーッとはしているものの、毎回必ずこうしてくれるのだ。本当に律儀で優しいなぁ。
靴を履きその背後からサンダルを突っ掛けた傑先輩が、私の真後ろから手を伸ばしてドアをガチャリと開けた。
そしてその瞬間、
「「「あ…」」」
私と傑先輩はピタリと動きを止め唖然と目の前を見つめた。三つの声がシンクロする。