第11章 無意識に
名前で呼んで欲しい…敬語も使わない…まさか夏油先輩の我儘が、そんな方向性の物だとは1ミリたりとも考えていなかった。
思わずパチパチと瞬きを繰り返す私に、こちらを見つめていた夏油先輩は少し眉毛を垂れ下げ「嫌だろうか…」とションボリとした顔を見せた。
え、かわいい…まるでしょげてる猫ちゃんみたいだ。夏油先輩って…あざと可愛いさもあったのか…
心の中で、そんな馬鹿みたいなことに納得してしまう。
「嫌じゃ無いですよ!全然嫌なわけないです!」
「…本当かい?」
「本当です!むしろ夏油先輩と仲良しになれたみたいで嬉しいです!!」
しょんぼりとしている夏油先輩に慌ててそう大きな声を出せば、先輩は嬉しそうに微笑んだあと「良かった」と、ホッとしたような息を吐き出した。
えっと…名前で呼ぶと言うことは…傑先輩って呼べば良いのだろうか。それとも傑さん?傑君?いやまさか呼び捨てとかって意味では無いよね!?流石にそれは無理だ、うん。傑先輩がベスト。
私は少しばかり緊張した面持ちでスッと軽く息を吸い込むと、ゆっくりと口を開く。
「…傑先輩」
見なくても分かる。きっと今私は頬を微かに赤く染めているはずだ。カーッと火照っていく頬の熱を感じながらも、小さくつぶやいた“傑先輩”と言う言葉に、何故だかむず痒さを感じた。