第11章 無意識に
「それじゃあ一つだけ、我儘を言っても良いかい?」
「もちろんですよ、何でも言って下さい!絶対叶えてみせますから」
「それは頼もしいね」
クスクスと肩を揺らし笑う先輩は、どうやら私の「絶対叶えてみせる」と言う何とも男らしいセリフが気に入ったようだ。
「それで、我儘って何ですか?」
夏油先輩の我儘って何だろうか。夏油先輩が我儘を言うなんて、少しも想像が出来ないから一体何を言われるかなんてちっとも思いつかない。
何か欲しい物でもあるんだろうか。それとも食べたい物があるとか?
布団の中で私を抱きしめたままこちらを見つめる先輩は、私の頬に触れるとゆっくりとその形の良い唇を動かした。
「名前で呼んで欲しいな」
「…へ?」
「二人でいる時は、名前で呼んで欲しい」
それは全く想像もしていなかった答えで、聞いた今ですら上手く話を理解出来ていないように思う。
「あと、敬語も無しにしてくれると嬉しい」
「え、あ…それが、私からのプレゼントですか?名前と…敬語…」
ニッコリと弧を描くようにして細められた黄金色の瞳は、私を視界に閉じ込めると嬉しそうに熱を見せた。
「それが私にとって、何よりのプレゼントなんだ」