第10章 淡い想い
まるで花が咲いたみたいに笑うその笑顔に、苦しくすらなった。呼吸が乱れ、平常心ではいられていない気がする。
「夏油先輩、よろしくお願いします!」
なんて可愛い声なんだろう。まるで鳥が歌うみたいに素敵だなどと、悟が聞いたら吐き気を催すようなセリフすら頭に浮かんだ。
大丈夫だろうか、私は彼女に不審に写ってはいないだろうか。
ちゃんと普通の先輩らしく、なんなら少しくらいはカッコ良く見えていると良いのだが。
そこまで思って、自身が今まで一度だってそんなことを考えたことが無いと気が付く。
いやいや、落ち着こう。一体どうしたと言うんだ。多分私はこの子に一目惚れをした…好きなんだと思う。
「夏油先輩って、凄くモテそうですね!」
いや、間違いなく好きだ。大好きだ。
ドドドッと高鳴る胸を何とか押さえつけながら、まるで何とも思っていないみたいに「ありがとう」と当たり障りのない返事を返す。
いや、今の一言じゃ冷たく聞こえたかもしれない。もっと上手い返し方があったかもしれない。
だけれど彼女はそんな私の心情を知る由もなく「あははっ、否定しないって事は本当にすっごくモテモテな証拠ですね」なんて無邪気に笑う。
普段ならば、初対面の相手に会って早々こんなことを言われたら不快に思ったかもしれない。
それでも、この無邪気さと明るさと、そして曇りひとつないその笑顔に、この子は多分天然の人垂らしだな。などとうるさい胸を押さえ付けながらも、必死でニコニコと爽やかな笑顔を向けた。